ホーム > 生産者インタビュー

生産者インタビュー

No.02 ~奈良の食文化を支える「縁の下の力持ち」で在り続けたい~

UEDAなっぱ工房/代表 柏木 喜章氏

農業生産法人
株式会社グリーンワーム21/宇陀市
代表 柏木 英俊氏

オフィシャルサイト

奈良県の榛原。吉野連山を眺望する大和高原の中腹に位置し、周辺から農薬や生活排水が流れ込まない理想的な環境の中、有機JAS法に則って使用資材を制限し、安心・安全な野菜を栽培する「農業生産法人㈱グリーンワーム21」の代表、柏木さんにお話を伺った。

農業生産法人 株式会社グリーンワーム21
奈良県宇陀市榛原栗谷108番地((株)陽光ファーム21内)
TEL:0745-82-1587

奈良食材の生産者インタビュー

ー 柏木さんは少し変わったご経歴なんですね。ご実家が農家でもなく、奈良出身でもないとか。神戸生まれの神戸育ちという、生粋の“神戸っこ”だそうですね。

柏木:そうなんです。税理士の父の影響もあり、大学在学中から会計士を目指したんです。ただ、普通の人と違って図書館や自宅に篭って勉強するのはあまり好きじゃないんですねぇ。毎日、山に登って森の中で勉強してたんです。でも、結果、会計士にはなれなかったんですがね…(笑)

ー そこから、どうして農業の道に進むことになったのです?

柏木:山で勉強してたぐらいですから、自然が大好きなんです。実家は兵庫県の三木市という場所で、酒米の山田錦の生産が盛んな場所だったんですね。税理士である父のお客様にも農家の方が多く、そもそも父の実家でも農業をしていたんですね。父は、農業は儲からないという理由で税理士になったらしいのですが・・・(笑)。

ー 現在のような有機農業をしようと思ったきっかけを教えてください。

柏木:川口由一さんの自然農法を知ったことですかね。農業というか、その生活観、生活様式に興味を持ったんです。日本旧来の、つまり自分で米や野菜を作って、薪を割って生活するし、村のコミュニティーがあるような・・・。オーストラリア発祥のファーマーカルチャーというライフスタイルにも興味を持って、後にニュージーランドにその文化を見に行ったりもしたんですね。でも、自然農もファーマーカルチャーのどちらも儲からない、金銭的には大変なんです。そのあたりを改善しながら、どうにか農業で食っていけないかと思いまして、自ら山の中で暮らしたい、農業にチャレンジしたいという思いがふつふつと沸いてきたんです。

ー そして、その後はどうされたのですか?

柏木:27歳から長野県で冬はスキーのインストラクター、夏は高原野菜の収穫のアルバイトという生活をスタートしました。その後、群馬県で有機栽培農家で住み込みで農家をお手伝いをして。先ほど言ったニュージーランドにも出かけるんです。

ー やっぱり普通の人とは一味違いますね・・・。長野県ではどんなご経験をされたのですか?

柏木:レタスの生産日本一である長野県川上村ではJA主導のシステム化された効率的かつ収益性の高い農業生産を目の当たりにしたんです。同じサイズのレタスが畑一面にびっしりと並んでいて、それを収穫、選別、箱詰め、出荷までの一連の流れを大きな設備で機械化された環境でした。レタス農家の人たちがみんなお金持ちなんです(笑)

ー 次にいかれた群馬県ではどのような経験をされたのですか?

柏木:群馬県北軽井沢では同じレタス栽培でも家族経営で減農薬栽培に取り組む農業のスタイルを経験しました。手作業で、レタスのサイズもまちまち。まさに正反対のスタイルです。一見、非効率に見える栽培方法でも、「らでぃっしゅぼーや」やオーガニックスーパー、レストランなど、食の安全に気を遣う取引先を持っていれば、十分に収益が上がることも体感できました。

ー なるほど、そしてそろそろ自分でやりたくなった。

柏木:そうなんです。儲かっている農業を目の当たりにしたので、自分も儲けたいと思いました(笑)。同じ群馬県で1ヘクタールの農地を借りて、レタスの生産を始めたんです。幸いにも修行した農家さんから売り先を1つ紹介してくださっての契約栽培をスタートさせました。

ー 順調に売れて売れて、柏木さんも儲かったんですか?

柏木:「そうなんです!」といいたいところですが、ちょうど私が始めた年が、レタス栽培にとって好天が続いたんですね。全国的にレタスが豊作。すると、当然ですが、野菜価格が下落し、レタスが1個10円、20円でしか売れないようになってしまったんです。そのとき、販路の重要性に気づくんですね。単に作れば売れる訳じゃないという、農業の大変さを知りましたね。

農業生産法人 株式会社グリーンワーム21

ー で、その後はどうされたのですか?

柏木:ニュージーランドで海外の農業のスタイルを見学してきた後に、地元の関西に帰って農業を再スタートさせようと思いました。たまたま「陽光ファーム」という奈良の農業法人が求人を出していて、そちらでお世話になって丸8年ですね。その会社から農業生産部門を独立する形で「グリーンワーム21」を立ち上げさせてもらいました。気づけば、この会社も5年目です。群馬での痛い経験をもとに、「陽光ファーム」ではまず、販路開拓に力をいれたんですね。極端な性格なので、天候によって生産量が左右される農業なのに、つまりは供給できるかどうかの保証もないのに、どんどん営業をして売り先を開拓していきました(笑)

ー 上手く行ったのですか?

柏木:当然また、そこで失敗するんですね(笑)。頼んでいたはずの野菜が来ないというクレーム・・・(笑)

ー 終始、笑顔の柏木さん・・・。

柏木:そこでまた、原点に返り、美味くて安全、安心な野菜を安定供給するために生産に力を入れたんです。すると、徐々にですが自ら営業しなくとも、勝手に買い手が付くようになってきたんです。私たちの野菜を気に入ってくれたレストランのシェフが、他のシェフに紹介してくださっていて、違うシェフからもどんどん注文が入るようになって、現在は30軒ぐらいのレストランに野菜を卸しています。

ー ついに成功ですね(笑)

柏木:成功かどうかはまだ分かりませんが、ようやく安定していました。シェフやレストランと繋がるようになって嬉しいのは、現場の声が聞けることです。もっと、こうして欲しいとか、ああして欲しいという要望をどんどん言ってくれるんですね。その声に応えていくことで、我々のレベルも上がっていく。そんなサイクルといいますか、良い関係が構築できることが嬉しいんですよ。

ー 今後の目標みたいなものは有りますか?

柏木:やはり、経営者として従業員が世間一般的に見て安心して暮らせるだけの収入を確保できるようにしたいと思っています。どこの農家さんも、農業法人も、野菜の生産で得られる収入だけで食べていくのが大変なので、6次産業化やアグリツーリズム、農家レストラン経営など、野菜の生産以外でもお金を稼ぐことがブームですし、国もそれを推奨しています。もちろん、それは否定しませんが、私個人としては、美味しい野菜を作ることに力を注ぎたいんですね。野菜作りだけで社員も食べていける農業生産法人でありたいんです。

ー 農家、生産者としてシェフとの関係であったり、消費者との関係の理想系があれば教えてください。

柏木:あくまでも、我々は縁の下の力持ちが理想なんです。実際に食材を料理してくれるシェフがいて、消費者であるお客様が喜んでくれる。そんな関係の中に在り続けたいんですね。

ー 今から楽しみです。本日はありがとうございました。

農業生産法人 株式会社グリーンワーム21

<< No.01 UEDAなっぱ工房 代表 上田 喜章氏

↑このページの先頭へ